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札幌地方裁判所 昭和45年(ワ)651号 判決

原告 袖村昌史

右訴訟代理人弁護士 中島一郎

被告 村山孝雄

〈ほか一名〉

主文

被告らは原告に対し連帯して金一三七、〇九〇円および内金一一七、〇九〇円に対する昭和四四年二月三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

原告の被告らに対するその余の請求はこれを棄却する。

訴訟費用はこれを四分し、その三を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。

この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

≪省略≫

理由

一、被告会社共同代表者代表取締役藤田尚典の訴訟行為の効力

記録添付の被告会社の登記簿抄本によれば、被告会社にはその代表取締役である藤田尚典(以下単に藤田という。)および浄土富俊(以下単に浄土という。)の両名が同会社を共同して代表すべき旨の定めがあることが認められるところ、本件各口頭弁論調書ならびに送達報告書によれば、第二、六、一二、一三回各口頭弁論期日を除く口頭弁論期日への呼出状はいずれも右のうち藤田のみを送達名宛人(受送達者)として同人に対して送達され、同人は第一回および第五回口頭弁論期日にのみ出頭(但し、第一回口頭弁論期日は延期された。)して前に摘示したとおりの訴訟行為をなしたこと、第二回および第六回口頭弁論期日についてはそれぞれ第一回および第五回口頭弁論期日において同期日に出頭した藤田のみに対して告知されたこと、第一二回および第一三回口頭弁論期日については右両名に対し各別に期日呼出状が送達されたがいずれも出頭しなかったこと、および、浄土に対しては第一二回口頭弁論期日への呼出状とともに藤田が右訴訟行為をなした第五回口頭弁論期日の調書(藤田の右訴訟行為の内容の記載がある。)の謄本が送達されたことが認められる。

しかし、本件におけるように、数人が共同して代表権を行使すべき場合にあっては、口頭弁論期日への呼出状はその各代表者に対して送達されるべく、また、訴訟行為も送達のごとく特別の規定(民事訴訟法一六六条、五八条)のある場合を除き原則として共同してなされるを要すると解すべきこと後に述べるとおりであって、右のような本件訴訟の経過に鑑みると、被告会社の共同代表者の一人である藤田のみがなした右訴訟行為の効力が問題となるので、先ず、この点につき判断する。

民事訴訟法一六六条、五八条は数人が共同して代表権を行使すべき場合の訴訟書類一般の送達に関し共同代表者のうちの一人に対してのみなせば足る旨を定めるが、このことからは必ずしも当然に口頭弁論期日への呼出状も共同代表者のうちの一人に対して送達すれば足るとの結論が導かれるものではないばかりか、訴訟書類の送達以外の訴訟行為の方式、効力については法は特に規定するところがない。しかし、実体法上共同して代表権を行使すべき場合にあっては訴訟行為もまた原則として共同代表者により共同してなされるを要するものと解すべきであり、従って、共同代表者のうちの一人がなした訴訟行為は、口頭弁論期日における弁論などの訴訟行為で、他の共同代表者が同期日に出頭せず、あるいは出頭しても異議を述べないなどにより共同の意思に基づく行為、共同してなした行為とみうる場合を除き、無効であるというべきであるとともに、その前提として各口頭弁論期日への呼出状は共同代表者各自に対して送達するを要するものと解すべきである。民事訴訟法一六六条、五八条が訴訟書類の送達は共同代表者のうちの一人に対してなせば足るとするのは実体法上も共同代表者、共同代理人の一人が意思表示を受領しうるとされることに対応するものであって、送達により当事者その他の訴訟関係人に重要事項を確実に通知しようとし、あるいは、裁判の効力や当事者の訴訟行為の完成、訴訟上の期間の進行開始などを送達にかからしめようとする場合にまでも共同代表者各自に対してそれぞれ送達しなければならないとすることは不必要なばかりでなく法律関係を極めて複雑にすることになるからである。これに反して、期日呼出状なるものは特定の訴訟関係人に対し一定の期日に出頭すべき旨の裁判所の要求ないし命令を内容とするものであり、訴訟行為は原則として共同代表者により共同してなされるを要すると解する以上、期日呼出状も右の規定にかかわらず共同代表者各自に対して送達するを要するものと解すべきである。あるいはこれとは異なり、口頭弁論期日への呼出状も共同代表者の一人に対してなせば足るとしつつ一人の共同代表者がなした弁論等の訴訟行為の効力を制限的に解する考え方もある(たとえば、本人に有利な行為のみ有効とするなど)が、訴訟行為は原則として共同してなされるを要するとする以上、期日呼出状も各代表者に対して送達すべきであり、逆に、期日呼出状が各代表者に送達されている以上、そのうちの一部のみが出頭して弁論をなし、他が欠席するなどにより共同してなしたとみうる場合にまでその効力を制限する必要はないであろう。

このように考えると、第一回から第一一回までの口頭弁論期日につき、被告会社の共同代表者である浄土に対し期日呼出状を送達しなかったことは訴訟手続規定の違背というべきであるが、右浄土は第一二回および第一三回口頭弁論期日の呼出状の送達を受けながらこれら期日に出頭して異議を述べることをしなかったのであるから、この点についての責問権を喪失したものというべきであり、更に、浄土に対しては第一二回口頭弁論期日への呼出状とともに藤田のなした弁論の内容の記載がある第五回口頭弁論期日の調書の謄本が送達され、これを知り得たにもかかわらず第一二回、第一三回各口頭弁論期日に欠席したのであるから、藤田のなした右訴訟行為は結局浄土との共同の意思に基づくものとみることを得べく、被告会社の訴訟行為としてなお有効であると解すべきである。この点を逆に解し藤田のなした弁論が被告会社の訴訟行為として無効であるとすれば、結局、被告会社は民事訴訟法一四〇条により原告主張事実を自白したものとみなされる結果となり、不合理である。以上藤田のなした弁論が被告会社の訴訟行為として有効であることを前提として本案につき判断することとする。

二、事故の発生ならびに責任原因

原告がその主張の日時場所においてその主張のような態様の交通事故により頸部に傷害を受けたこと、そのため札幌市所在の中村脳神経外科医院においてその主張どおりの入通院をして診察、治療を受け、頸部自律神経症候群、頸つい不安定症、大後頭三又神経痛との診断がなされたことはいずれも当事者間に争いがない。そして、≪証拠省略≫によれば、原告は右傷病のため前記の入通院治療中は頭痛、目まい、頸部のとう痛などを訴え、昭和四四年六月二五日をもって治療は止めたもののなお大後頭神経の領域にとう痛、ときには激痛を残し、これは右病院の医師により労働者災害補償保険法施行規則別表第一の障害等級一二級に該当すると判定されたが、昭和四六年三月三日現在においては既に快ゆしていることが認められる。

そして、被告会社が加害車を所有して自己のために運行の用に供していたものであることは同被告において認めるところであり、また、本件事故の発生につき被告村山に前方不注視の過失があったことは同被告の自認するところであるから、被告会社は自賠法三条本文により、被告村山は民法七〇九条によりそれぞれ本件事故により生じた原告の後記損害を連帯して賠償すべき責任がある。

三、損害

(一)  治療関係費

1、≪証拠省略≫によれば、原告は本件事故による傷害の治療診断費として少くとも合計金三〇六、五八八円の債務を負担し、同額の損害を被ったことが認められる。

2、≪証拠省略≫によれば、原告は前に認定の通院治療に際し札幌市水車町の自宅より同市南四条西二九丁目所在の中村脳神経外科医院まで往復タクシーを利用し合計約九、七〇〇円をタクシー代として支出したことが認められ、病状その他の事情に鑑みるとき右のうち約二分の一である金四、八六〇円を本件事故と相当因果関係のある損害とする原告の主張は相当である。

3、≪証拠省略≫によれば、原告は前記入院期間中の昭和四四年二月八日から同二四日までの一七日間ギブスにより固定されて安静治療を要したのでその間付添看護のため訴外藤井シゲヨを付添人として雇い入れ、その費用として合計金二五、四四五円を支出し、同額の損害を被ったことが認められる。

4、≪証拠省略≫を総合すると、原告は前記入院期間中に牛乳代として合計金三、二二四円を、頸つい用装具代として金六、二〇〇円を、また、医師の指示に基づく色付眼鏡代として金二、九〇〇円をそれぞれ支出したことが認められ、その他にも相当の入院諸雑費を支出したことが認められるが、傷害の程度、入院期間その他の事情より右のうち金二五、〇〇〇円を本件事故と相当因果関係のある損害と推定する。

(二)  休業補償

≪証拠省略≫を総合すれば、原告は札幌トヨタディーゼル株式会社で外交販売員として働いていたものであるところ、本件事故による傷害のため、昭和四四年二月四日から少くとも同年四月一〇日ごろまで欠勤し、そのために同年二月分の給与金二〇、三六七円、同年三月分の給与金二七、一五〇円、同年四月分の給与金九、六〇〇円(二、三月分については甲第一二号証の八、第一三号証の一二の各月給与証明書より、四月分については事故前三か月の給与、諸手当合計をその期間の総日数で除し、それに一〇を乗じて算出したもの。原告が昭和四四年二月三日から同年四月七日までの得べかりし給与の合計額を金七五、〇八八円とした算定の根拠は明らかでない。)の支払を受けることができず、また、同年の夏期に賞与金として支払われるはずであった金五八、〇八〇円の支払を受けることができず、以上の合計金一一五、一九七円の損害を被ったことが認められる。

(三)  慰謝料

原告の傷害の部位程度その他これまでに認定の諸事情に鑑みると、本件事故による原告の精神的損害を慰謝すべき額は金四五万円とするのが相当である。なお、中村脳神経外科医院の医師が原告の後遺障害が労働者災害補償保険法施行規則別表第一の障害等級一二級に該当するとの判定をしたことは前に認定したとおりであり、また、この種の後遺障害の存する場合の慰謝料の算定にあたっては右障害等級のいずれに該当するかを一応の基準とすることにはそれなりの合理性があるのであるが、≪証拠省略≫によれば、原告は退院後程なくして通常どおり勤務しており、また、大後頭神経の領域にみられたとう痛、激痛も退院後二か月あまりを経過した昭和四四年六月中旬ごろよりは消失したことが窮われる本件にあっては右医師の判定を直ちに慰謝料算定の前提とすることはできない。

四、損害のてん補

以上に認定のとおり、原告が本件事故により被った損害は合計金九二七、〇九〇円であるところ、被告らより一部弁済金として金八九、四六五円の支払を受けたことは原告において自認するところである。原告は、当初自賠責保険金として合計金八六六、二二一円の支払を受けたと主張し、被告らにおいてこれを援用した後において自賠責保険金として受領したのは金七二〇、五三五円であって当初の主張は右を越える限度において真実に反する陳述で錯誤に基いてしたものであるからこれを撤回すると主張するところ、≪証拠省略≫を総合すると、自賠責保険金の被害者請求分として原告に支払われたのは合計金七二〇、五三五円であることが認められ(≪証拠判断省略≫)、原告の当初の陳述は錯誤に基づくものであることが推認される。従って、原告の右陳述の撤回は金七二〇、五三五円を越える限度において有効というべきであり、被告らにおいても、原告が右の額以上の自賠責保険金の支払を受けたことを立証しないので、結局、原告は右の合計金八一万円の損害のてん補を受けたことになる。

五、弁護士費用

以上のとおり、原告は金一一七、〇九〇円を被告らに対し請求しうるものであるところ、≪証拠省略≫によれば、被告らはその任意の支払に応じないので原告は弁護士たる本件原告訴訟代理人に本訴の提起追行を委任し、その手数料、報酬として金五万円を右弁護士に支払う約束をしたことが認められるが、本件訴訟の経緯その他諸般の事情を考慮して、そのうち被告らに賠償せしめるべき金額は金二万円を以って相当とする。

六、結論

よって、被告らは連帯して原告に対し右の合計金一三七、〇九〇円の損害賠償金とこれより弁護士費用金二万円を除いた金一一七、〇九〇円に対する本件事故の日である昭和四四年二月三日から支払ずみまで民事法定利率の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があるから、右の限度で原告の被告らに対する本訴請求を認容し、その余の請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言について同法一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 村上敬一)

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